エジプト語アルファベットの検証

本稿は、先行記事「アブラハムの書の真実」の続編です。ミイラとともに謎のパピルスを手に入れたジョセフ・スミスが、独自の「翻訳」を進める過程で作成した通称『エジプト語の文法とアルファベット(Grammar and Alphabet of the Egyptian Language - GAEL)』と『エジプト語アルファベット』 (Egyptian Alphabet)とを取り上げます。ジョセフ・スミスがパピルスを「アブラハムの書」として翻訳を進めながら彼はエジプト文字を英語に翻訳する「辞書」を作ってゆきました。それがこれらのノートでした。

① シャンポリオンの解読:ジョセフの知らない歴史の真実

ジョセフ・スミスがパピルスを入手し、独自の解読を試みるよりも前、1822年にフランス人学者ジャン=フランソワ・シャンポリオンがロゼッタ・ストーンを用いてヒエログリフ(エジプト文字)の解読に既に成功していました。

ジョセフはその事実を全く知らぬまま、見当違いの「辞書作り」に没頭します。しかし、何らかの理由で辞書作りは途中で放棄されてしまいます。後述するようにジョセフの翻訳方法がデタラメであったために続けることができなかったのでしょう。そのままうっちゃられた原稿ノートは、ジョセフの死後はブリガム派が所有しソルトレークシティーに伝来することとなります。

② 辞書の内容:表音文字を「表意文字」と思い込む致命的ミス

ジョセフ・スミスが作成した『エジプト語アルファベット』の最大の特徴であり、本人も著作を断念した致命的な欠陥は、その翻訳の前提にありました。

本来、古代エジプト文字の多くは音を表す「表音文字」です。しかしジョセフは、一文字一文字が深遠な意味を持つ「表意文字」であると誤解していました。(デタラメなのに誤解というのもヘンですが)そのため、わずか1つのエジプト文字に対して、何行にも及ぶ膨大な英語の意味やストーリーを強引に付していくという、極めて不自然な辞書を作り上げたのです。

③ なぜ辞書なのか:預言者としての最大の自己矛盾

ここで冷静に考えてみてください。ジョセフ・スミスはモルモン書を翻訳した際、神から与えられた「解訳器(ウリムとトンミム)」や「見者の石」を使って翻訳していました。先行するモーセの書に至っては原本も改訳道具もなく、全て啓示によって解読しています。神の力によって直接テキストを翻訳できる能力を持っていたのであれば、なぜ今回に限って、人間的な努力の結晶である「本格的な辞書」を一から手作りするという、無駄で気の遠くなるような作業をする必要があったのでしょうか。まるで預言者としての能力を自ら否定するようです。ジョセフの行動はいつも支離滅裂であり、それが却って預言者としての神秘性を生んでいたのかもしれません。しかし、後年の我々から見れば単に矛盾する行為としか見えないのです。

④ 結語:明るみに出された著作

教会はこれらのノートを「未完成の私的な研究資料」として、一般会員や外部には公開せずマイクロフィルム化したものとともに保管庫にしまい門外不出としました。元より存在自体を積極的に語れる代物でもありません。困った遺産、不良債権です。ところが、1966年にこの保管庫からマイクロフィルムが流出してしまいます。内部告発者の仕業とも、反モルモンのスパイが持ち出した説など諸説があります。それが有名な反モルモンにして研究家のタナー夫妻の手に渡ります。夫妻は昼夜兼行で資料を写し、教会が法的手続きを進める前に出版してしまいます。教会は大パニックに陥ります。そして、もっとも選んではいけない手を打ってしまいます。タナー夫妻を著作権侵害で訴えたのです。つまり、教会は出版物の原本がモルモン教会の所蔵するもの、つまりジョセフ・スミスの著作であることを自ら認めてしまったのです。ここは忍び難きを忍び、黙殺するか、しらばっくれるしか教会には方法はなかった。「墓穴を掘る」とはまさにこういうときに使うことわざです。

「隠されているもので、あらわにならないものはなく、秘められたもので、人に知られず、公にならないものはない。」(ルカによる福音書8章17節)

福音書の言葉をモルモン教会に献げてこの項を終わります。

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