コラム

コラム:マーティン・ハリスは「最高のカモ」

昔、脱会モルモン仲間と話したとき、彼が言った言葉が忘れられません。
「マーチン・ハリス、あれは詐欺の被害者だよ。ジョセフ・スミスらのカモだったんだよ」と。

翻訳された金版を出版してひと儲けしようとしていたジョセフやオリバー・カウドリに引っかかり、ハリスは土地をはじめ全財産を奪われて破産してしまいました、というのが彼の主張でした。なかなか説得力のある話しでしたが、アメリカからの情報も少なかった時代、深く調べることはできませんでした。

しかし現在、アメリカをはじめ海外からインターネットを通じて情報が豊富に届くようになり、彼の言っていることは正しかったことが証明されています。ハリスの破滅は、現代の統一教会の信者のそれとそっくりです。

ハリスは地域でも評判の「オカルト好き」でした。隣近所にこんなことを本気で吹聴していたのです。

そんなハリスは資産家でもあり、ジョセフらが寄ってこないはずがありません。彼が金版を見たというのも、後日の述懐によれば非常に曖昧です。

「私は金版が布に包まれているのは見たが、剥き出しの実物は肉眼では見ていない。見たのはすべて、霊的なビジョン(幻)の中である」
「衣服の上からカバンの中にあるような感覚で触っただけだ」

これらは完全にマインドコントロール下に置かれ、そう思い込まされていたのでしょう。

翻訳を進めるうちに、ひとつの事件が発生しました。「116ページの原稿紛失事件」です。ジョセフの口述を書き留めた初期の原稿を、ハリスが自宅に持ち帰ったところ、跡形もなく紛失してしまったのです。これは、ハリスの妻が詐欺師から夫を守るために仕掛けた業という説もあります。

やがてモルモン書の印刷にあたり巨額の資金が必要になると、ジョセフの要求はエスカレートしていきます。なかなか首を縦に振らないハリスに対し、ジョセフは「神からの啓示」(現在の『教義と聖約』第19章)を突きつけました。

「あなたに命じる。あなたは自分の財産をむさぼることなく、真理と神の言葉が載っている『モルモン書』を印刷するために惜しみなくそれを分け与えなさい」

「あなたの財産の一部、すなわちあなたの土地の一部、あなたの家族の扶養分を除くすべてを分け与えなさい」

「印刷業者との契約によって生じた負債を支払いなさい。束縛から自らを解放しなさい。」

もしこれに従わなければ「神の滅びと罰が下る」と脅迫したのです。今で言う「地獄に落ちるわよ」という霊感商法の常套句ですね。

完全に追い詰められたハリスは、現在の価値で数千万円相当にのぼる広大な農地を抵当に入れ、印刷代金を支払いました。結果、「モルモン書」は印刷されましたが、ハリスは見事に破産し、妻とも離婚することになります。

その後、カートランドのインチキ銀行が破綻したことで、ようやく彼の目が覚めます。しかし、彼が教会を離れたのを追いかけるようにして、ジョセフは彼を破門しました。

それでもオカルト癖の抜けないハリスは、その後もオカルティックな新興宗教の派閥を転々としました。主なものを挙げるだけでもこれだけあります。

最終的にすべての派閥から見捨てられたハリスは、誰もいなくなったオハイオ州のカートランド神殿に居座るようになります(管理人を自称していました)。

家族にも愛想を尽かされて孤独の身となっていた彼は、通りかかる観光客や一般住民に対し、ボロをまとって虚ろな目をしながら、「私は昔、ここで天使を見た。金版を見たんだ」と昔話を語って小銭を稼ぐ、哀れな老人となっていました。

そんな彼を最後に待っていたのは、ヤング派による「回収」でした。「金版の見証者が悔い改めて教会に復帰した」という美談は、ヤング派(主流派)にとって非常に美味しいプロパガンダだったのです。旅費はヤング派が全額負担し、ハリスは87歳の高齢でユタへ移住。その5年後に息を引き取りました。