詐欺師の帰郷と飛躍
これまで「若き日のジョセフ・スミス」の検証を進めてきましたが、ここで一度、教会の公式見解と実際の歴史的事実(史実)を分かりやすく比べておきましょう。両者を並べてみると、まるで別人ではないかと思うくらい、内容が全く違っていることがよく理解されるでしょう。
教会の公式歴史 vs 実際の歴史(史実)
| 比較時期 | 教会の公式見解・物語 | 客観的な史実・裁判記録 |
|---|---|---|
| 1820年頃 (14~15歳) |
神とイエス・キリストが目の前に現れる「最初の示現(ファースト・ビジョン)」を体験し、どの教会も正しくないと告げられる。 | 近隣住民の証言や当時の家族の記録からは、このような大事件が起きた形跡は一切ない。ジョセフ自身が最初にこの体験を日記に書くのは12年後の1832年である。 |
| 1823年頃 (17歳頃) |
天使モロナイがジョセフの前に現れ、金版の存在を告げられる。神聖な目的のために毎年指定の場所に通い、清い器としての訓練を受ける。 | 地元紙や記録によれば、ジョセフは帽子に入れた「見者の石(魔術的な占い石)」を覗き込み、埋蔵金や失くし物を探す「宝探し屋(マネー・ディガー)」として活動していた。 |
| 1825年頃 (19~20歳) |
「単に雇われて鉱山を掘る誠実な手伝いをしていただけ」とされ、のちにエマ・ヘイルと相思相愛で結婚した美しい話として美化される。 | 「透視能力で銀鉱山が見つかる」という名目で、富豪のジョサイア・ストールに高額でスカウトされる。しかし、結果が出ないことに激怒したストールの親族や周囲から「詐欺師」として訴えられる事態に発展する。 |
| 1826年3月 (20歳) |
公式歴史ではこの時期に起きた都合の悪い司法トラブルや裁判の事実は完全に隠蔽、あるいは省略されている。 | ニューヨーク州チェナンゴ郡の裁判(司法記録)にて、「ガラス凝視者(占い詐欺師)」として逮捕・起訴され、有罪判決(あるいは有罪相当の裁定)を受けて追放される。 |
| 1827年1月 (21歳) |
神の導きによる預言者としての結婚であり、家族からも祝福された正当な婚礼であるかのように描かれる。 | 前科者となったジョセフは、エマの父親(アイザック・ヘイル)から猛反対を受ける。断固として結婚を拒否されたため、ジョセフはエマと駆け落ち同然の結婚に踏み切る。 |
失墜した信頼と「神聖な物語」の誕生
私も含めてジョセフ・スミスを調べている多くの人たちが主張するのは、「最初の示現」や「モロナイの最初の出現」といった神聖なエピソードが考え出されたのは、まさにジョセフが詐欺で逮捕され裁判を受け、有罪判決で追放されて帰郷したこのころであっただろうということです。
尾羽打ち枯らし帰郷したジョセフは、軽微な罰ではあったとは言え、法的に認められた詐欺の犯罪者であり、それまで行っていた「宝探し屋(Money Digger / Glass Looker)」としての周囲からの信頼(?)は完全に失われていました。もう埋蔵金ビジネスで人を騙すことは不可能です。
ただ、彼の懐には、宝探しやスカウトの際に使っていたあの「見者の石」だけが虚しく残されていました。
怒れる親族や周囲から逃れ、駆け落ち同然で新生活へと突き進むジョセフとエマ
親の反対を押し切って駆け落ちしてきた妻(エマ・ヘイル)のためにも、生活の糧を得て何とか働かねばならないジョセフが、心機一転して考え出した新しい手口、それが「宗教」でした。失われた人間社会の信頼を、誰も否定できない「神」や「天使」という絶対的な存在を使って取り戻そうとしたのです。
まず、彼は自らの不都合な過去(占い詐欺師としての前歴)を上塗りすることから始めます。かつて帽子を覗き込んで埋蔵金を探していた怪しい行為を「天使モロナイとの交流」や「最初の示現」という神聖な文脈へとすり替え、語り直し、やがて『金版の発掘と翻訳』という壮大な宗教物語へとつなげてゆくのです。